第44回全日本学童マクドナルド・トーナメント東京都予選大会の決勝は、船橋フェニックスが不動パイレーツを9対6で破り初優勝。昨秋の新人戦に続いて、東京1051チームの王者に輝いた。準決勝の勝利で全国出場を決めていた両軍の一騎打ちは、激しく流れが行き来。経験値と地力で優る船橋が大逆転から逃げ切ったが、不動も食い下がる熱戦となった。
(写真&文=大久保克哉)
※全国展望チーム紹介「不動パイレーツ」は近日中、「船橋フェニックス」は都知事杯リポート後に掲載します
※※記録は編集部、本塁打はすべてランニング
優勝=初船橋フェニックス(世田谷区)
準優勝
不動パイレーツ(目黒区)
■決勝
◇6月15日 ◇府中市民球場
不動パイレーツ
0114=6
045×=9
船橋フェニックス
※4回表終了、時間切れ
【不】難波、山本、嶋本-細谷
【船】松本、髙橋、長谷川-竹原
本塁打/木村(船)、石田(不)
双方のベンチの上では、それぞれの下級生たちが観戦しながら応援
先手を取ったのは…
加盟チーム数は47都道府県で唯一の4ケタを誇る「東京」。そのチャンピオンが、そうあっさりと決まるわけがない。
両軍ともに昨夏も全国出場している。今年も地元の予選から長い道のりを勝ち続けてきた同士が、一進一退の攻防を展開。結果、4イニング半しか消化できなかった90分間が、あっという間に感じたのは筆者だけではないだろう。それだけハイレベルで、中身の濃い戦いでもあった。
新チームの実績では、船橋フェニックスが凌駕している。無敗のまま新人戦の関東王者となり、2024年に入っても首都圏江戸川大会、ナガセケンコー杯と23区の主要大会を制覇した。
1回表、不動の二番・難波がレフト前へ、両軍通じて初安打を放つ
しかし、この日の先手を取ったのは昨夏、東京勢最高の全国準優勝を遂げた不動パイレーツだった。唯一残った準Vのレギュラー戦士、難波壱が1回の攻防で大いに存在をアピールした。
まずは1回表、一死無走者で左打席に立つと、船橋のエース格・松本一からレフトへクリーンヒット。得点にはつながらずに攻撃は終わるも、その裏のマウンドでは重量打線を同じく無得点に。先頭打者に四球を与えたが、後続には良い当たりも許さなかった。
そしてやや押し気味の不動が、2回表に均衡を破る。5年生の田中璃空が引っ張っての右越え三塁打。続く八番・米永結人は流しての右越え二塁打で、1点をもぎ取った。
2回表、不動は5年生・田中の三塁打(上)に米永の二塁打(下)で先制する
「今日はまぁ、ところどころで打たれて点も取られはしたんですけど、最少点で終わらせることができたので、結果としては良かったと思います」
レベルも枚数も十分の船橋投手陣の中でも安定感を誇る松本は、この試合の最速が107㎞。自己新の更新より、ゲームメイクを優先したようだった。初失点後の二死三塁のピンチを105㎞の速球で切り抜けると、重量打線が目を覚まし始める。
目を覚ました重量打線
「打線は上位も下位もなく、六番からまた攻撃が始まるようなイメージ。どこからでも点数を取れるような布陣ですね」
これは試合後の船橋・木村剛監督の弁だが、従来の一番ではなく六番に入った息子の木村心大が、2回裏に逆転2ラン。右中間を襲う文句なしのランニング本塁打だった。
船橋は2回裏、六番・木村が逆転2ラン(上)。さらに二番・松本の犠飛(下)などで一挙4点
「高めの速い球を打ちました。とりあえず1点を先に取られちゃったので、絶対にやり返してやろうと思いました」(木村)
このチーム初ヒットが、マウンド上の不動の背番号1を狂わせていくことに。船橋は長谷川慎主将の二塁打と四球で無死一、二塁から、九番・直井翔眞の犠打が内野安打となって無死満塁に。ここで一番・半田蒼馬が押し出しで3対1となったところで、不動は山本大智がマウンドへ。
背番号3の右腕は、二番・松本に右犠飛を許して3点差とされたが、続くピンチを6-4-3の併殺で切り抜けた。そして3回表は、難波の中前打と三番・細谷直生の右翼線二塁打で1点を返す。
2回裏の守りを6-4-3併殺で終えた不動(上)は、直後の3回表に難波と細谷(下)の連打で1点を返す
しかし、2巡目に入った船橋打線は、パワーだけではないことも見せつけながら、リードを7点にまで広げた。
3回裏、まずは四番・吉村駿里の二塁打と、五番・濱谷隆太の右前打であっさりと1点が入る。続いて木村の四球と長谷川主将の右二塁打で無死二、三塁とすると、暴投の間に2者が一気に生還。この好走塁で得た2点目が、結果として勝利を決めることに。
3回裏、船橋は五番・濱谷(上)と七番・長谷川主将(下)の適時打などで9対2とリードを広げた
「取られたら取り返す」
「大量点を取られるのは想定済なので、取られたら取り返す、という感じでいました」
試合後にこう話したのは不動の一番・石田理汰郎だったが、他の選手やベンチにも終始、同様の空気感があった。3回を終えて2対9というスコアになっても弛緩したムードはなく、かといってヤケにもムキにもなっていない。
4回表から登板した船橋の剛球右腕にも動じることなく、好球必打で応じた。米永の右前打に続いて九番・唐木俊和が四球を選ぶと、石田が追い込まれてからの遅球を左中間へ弾き返し、これが3ランに。
「タイミングはストレートに合わせていて、スローボールが来たので待ってガマンしてから打ちました。普段からそういう練習も? はい! めっちゃ、めっちゃしています!」(石田)
4回表、不動の一番・石田が左中間へ3ラン(上)。五番・川本も右中間へ適時二塁打(下)で3点差に迫る
その後、船橋は三番手の長谷川主将へスイッチするも、不動の逆襲は終わらない。細谷の左前打に五番・川本貫太の右中間二塁打で3点差まで詰め寄った。なお、二死二塁で、第1打席に三塁打の5年生・田中がまたもライト方向へライナーを放つ。
しかし、これは右翼手の直井がダイレクトでグラブに収めて3アウト。このときすでに、開始から90分が過ぎており、そのままゲームセットとなった。
4回表のピンチに、船橋は選手だけでタイムを取る(上)。正捕手・竹原が小飛球を好捕(下)で奪った2アウト目が大きかった
船橋は昨年の3位も上回って大会初優勝。ハイレベルとハイパフォーマンスで、昨秋から関東圏でタイトルも話題もほぼ独占してきた感もある。それでも、勝って当然という視線もある中で最後まで勝ち切った選手たちを指揮官は大いに称えた。
「新人戦に続いて東京で大会連覇というのは、それなりに意味があると思います。この大会でまた選手たちが成長しましたね…」(木村監督)
一方の敗れた不動の鎌瀬慎吾監督も、表情は明るかった。そして口をつくのは、今大会での収穫と手ごたえだった。
「全員が地味に機能して、日替わりでヒーローが誕生。ベンチのメンバーたちも献身的にやってくれた上に、準々決勝と準決勝ではメンバーを全員使い切るという総力戦の中で、みんな良い仕事をしてくれました」
またこの決勝戦、両軍のベンチ上のスタンドには、それぞれ5年生たちの姿もあった。安定した右翼守備と、つなぎの小技と打撃で勝利に貢献した船橋の九番・直井はしみじみとこう言った。
「今は最高の気分ですけど、新人戦の優勝から今日まで、めっちゃ長かったです。今日はスタンドの5年生たちもすごい声を出してくれたので、緊張も早くほぐれてチームが一体となって戦えたと思います」
※全国プレビューのチーム紹介「不動パイレーツ」は近日中に、「船橋フェニックス」は都知事杯のリポート後に掲載します
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ケガから復活、右翼線二塁打に最速113㎞
たかはし・こうすけ高橋康佑
[船橋6年/中堅手兼投手]
すでに中学生並の身体を持て余していない。圧巻のパフォーマンスにつながっていることは、一目瞭然だ。3月2日の京葉首都圏江戸川大会(東京23区59チーム参加)の決勝では、満塁ホームランを放っている(リポート➡こちら)。
しかし、無敵軍団でレギュラーを張る仲間たちに負けまいと、常軌を逸するほどバットを振り続けたのかもしれない。成長期にあるだろう、高橋康佑の腰が悲鳴をあげてしまった。
「腰をやっちゃうと、素振りも何もできなくて。ほとんど動けないのでストレスもたまるし、みんなが打って勝っているのを見て、うらやましいなと…」
当初はチームにも帯同せずに、自宅で療養。4月6日の東日本交流大会の準決勝(対茨城・茎崎ファイターズ)には姿があったものの、まだ満足に動けず。チームの公式戦初黒星を、ベンチから見届けるしかなかった。
東日本大会最終日では、重い足取りでバット引きなど裏方をこなしていた(中央)
「ホントに徐々に徐々に、動けるようになってきて。最近やっと、ピッチャーでも復帰しました」
5月半ばに開幕した、この全日本学童東京大会で戦列復帰。決勝は八番・中堅でスタメン出場し、第1打席は死球、第2打席で右翼線へ二塁打を放った。そして9対2と大差リードで迎えた4回の頭からマウンドに登場すると、長らくの鬱憤を晴らすかのように初球で113㎞の剛速球を投じてみせた。
その後はアンラッキーもあってピンチを招き、3ランを浴びて四球を出したところで降板。結局、一死も奪えなかったが、試合後まで引きずった様子はなかった。
「球速はそこまで気にしてないです。ケガで出られないのに比べたら、試合中も何も辛くないし。みんなで日本一を本気で目指してきたので、チームのために1つでもできることをして全国制覇に貢献したいです」
―Pickup Hero❷―
全国銀メダリストの矜持。強敵からチーム初安打&先制の口火に
なんば・いち
難波 壱
[不動6年/投手兼左翼手]
まずは2年連続(5回目)で全日本学童出場を決めたことに、大きく安堵している。難波壱は正直に、胸中を打ち明けた。
「全国出場とか、口で言うのは簡単だけど、実際にそれをやるのは難しいので」
昨年は5年生で唯一のレギュラーとして、全日本学童準優勝に貢献。しかもチームの年間本塁打王に。小柄ながら群を抜くパンチ力に加え、最速120km超の怪物投手からも複数の安打を放っていた(「2024注目戦士❽」➡こちら)
となれば当然、「今年も!」と周囲は期待するし、本人もその気だ。断トツの経験値と投打の二刀流で、新チームを引っ張ってきたが、秋の新人戦は都3回戦敗退。前途多難を予感させた。
「新人戦の後も日ごろの練習からみんなで真剣にやってきたから、ここまで来れたと思います」
東京都の全国出場枠は「3」。すでにその枠内を決めて迎えた決勝の相手は、昨秋の関東王者だった。
「船橋が強いことは知っていたんですけど、ホントに強かったです」
先発のマウンドに上がり、初回は1四球のみの無失点でスタートした。警戒するあまりに2回には制球が乱れ、逆転2ランなどを浴びて途中降板。しかし、打席では意地やプライドが透けて見えた。
1回表に逆方向へチーム初安打。3回の第2打席は、曲芸のように立ち位置を変えながらインハイのボール球を中前へ(=下写真)。この一打が先制につながった。
「悪球打ちも持ち味? よくわかりませんけど、回転と反応で打てました」
仲間たちの急成長もあり、肩にのしかかっていた荷は明らかに軽くなったように見受けられる。8月の全日本学童大会も2回目となる。昨年は決勝まで6試合でついに出なかった、70mのサク越えアーチも狙いたいという。
「1本は必ず打ちたいですね。全国までに個々の能力をもっと上げるのも大事。チームを勢いづける、勝たせるような役割をしたいです、どんなことでも」
前途多難を覆して決めた夢舞台。そこでも厳しい戦いが予想されるが、背番号1の壱は全国1番の金メダルへと突き進む。